現在のエネルギー供給に関する問題を解決し、近未来に持続可能なエネルギー供給を実現するために、FRECRでは日々研究を重ねています。また研究の最前線で活躍する教員はそれぞれに、各種関係機関内でも重要な役割を担っています。ここではFRCERの教員が社会でどのような役割を果たしているのか、その一部をご紹介します。
1997年のCOP3(地球温暖化防止京都会議)において、我が国はCO2排出の6%削減(1990年比)に合意しました。日本は毎年約3億トン(炭素換算)のCO2を排出していますが、これを削減するための実効的手法の一つとして地中貯留技術が提唱されています。地中への流体圧入に関しては、天然ガスの地下貯蔵ならびにEOR(原油回収増進法)などで蓄積された技術を応用できる利点があります。しかしながら、将来これを本格的に実施するには、解決すべき課題もいくつかあります。例えば、(1)圧入・貯留時の二酸化炭素の熱力学的・水理学的挙動、(2)長期的(数百年のオーダー)環境安全性、(3)コスト効率・エネルギー収支、などを検討していく必要があるのです。このような課題に対するブレークスルーを求めて、平成12~16年度に掛けてシミュレーション技術開発などの基礎研究、実際の圧入井を用いた実証試験、ならびに地質調査等が行われ、平成17年度からは、実適用のためのロードマップの提示と地中挙動モデルにもとづく安全性評価手法の確立を目指した研究が実施されています。
日本近海の海底下に存在するメタンハイドレート(MH)には、国内天然ガス消費量の100年分に相当するメタンガスが埋蔵されていると試算されています。経済産業省は、資源としてのメタンハイドレートの有効性を実証して2016年度までにその生産技術を整備することを目標に、2001年7月に「我が国におけるメタンハイドレート開発計画」を策定し、その計画に従って、2002~2008年度の7年間、メタンハイドレート資源開発研究コンソーシアム(通称MH 21研究コンソーシアム)がフェーズIの研究を実施しました。当センター教員は、本研究コンソーシアムに参加して、日本近海のMH資源量評価、MHからのガス生産手法に関する先端研究にチャレンジしています。
フェーズIの研究で得られた大きな成果の一つは、3次元物理探査を用いたメタンハイドレート濃集帯の検知技術が確立したことです。この技術の適用により、東海沖~熊野灘の海域メタンハイドレートの資源量評価が行われ、当海域に約1.1兆m3のメタン原始資源量(国内ガス消費量の約13.5年分に相当する量)が存在することが明かになりました。さらに、メタンハイドレートからのガス生産研究で、技術の大きなブレークスルーがありました。2008年3月に実施されたカナダ・マッケンジーデルタの陸上生産試験で永久凍土下のメタンハイドレート層から「減圧法」により6日間の連続ガス生産に成功し、世界で初めて生産手法として減圧法の有効性を確認しました。また、メタンハイドレート層からのガス生産挙動を予測する貯留層シミュレータ(MH21-HYDRES)を用いた数値計算では、日本近海のメタンハイドレート濃集帯に減圧法を適用した場合、経済的にもペイするだけの大きなガス量を生産できると評価されました。その他、メタンハイドレートコアの採取・分析装置、メタンハイドレート開発に伴う海洋環境影響評価のツール等の基盤技術が整備される等、フェーズIの研究では、メタンハイドレートが国産のエネルギー資源となり得る可能性が示されました。MH資源開発の研究は日本が世界を先導する形で進んでいます。フェーズIIでは、日本周辺海域のMHガス生産試験を含めてメタンハイドレート開発の早期実現へ向けた研究計画が予定されており、今後の研究開発の進展が期待されます。